膜②

思えば

私はその膜を破った記憶も脱いだ記憶も消し去った記憶もない。
感じなくなっていただけだったのだ。

 


幸か不幸か、皮肉にも?心の学びを深めることで
その膜をより強固に、より薄く、よりクリアに
まるで皮膚の様に
私の身体をぴったりとおおいつくして。
巧妙、絶妙、狡猾な高機能ボディスーツに進化させていた。


実は膜は2層構造だ。
「恐怖」と「防御」でできている。


怖いから防御を強め
防御を強めることでますます怖くなる。


お互いがお互いに力を与え
さらに強く結びついて
私を「私」たらしめるものとして
私のアイデンティティを形作っていた。


おまけに
その膜は素晴らしく透過性能も高く
恐怖と防御を強化するものであれば
あれこれ構わず
いとも簡単に外界とエネルギーを取引することができる。

 


心の学びはこの膜をより高性能にするのにうってつけだった。

 


人の心のしくみを知れば
まわりの人のことがわかる。
言動にしても行動にしても。
どうしてその人がそうなったのか大体予測がつく。


人の心が透けて見える。
その本人が自身で気づいていないことまでも。


「わからない」という不安を解消するには十分だった。


それでいいと思っていた。
それが最強だと思っていた。


いつだって対象を自分の外側に見ている。


攻撃するべきは膜の向こう側にいる。


そう信じている間はむしろ能天気に幸せだったのかもしれない。


わかってるつもり


という勘違いを重ねていくだけ。


本当は何一つわかっていなかった。


何一つ。